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コラムマーケボン

(Tue Apr 08 10:19:00 JST 2014/2014年4・5月号 マーケボン)

田中先生のこと
『世代論のワナ』(山本直人著/新潮新書) 平塚元明 マーケティングプランナー

  以前のこと、仕事でお世話になった若い人が、会社を辞めるというので事情を聞いたら、学校の先生を目指すというのがその理由だった。「目指す」というのは、彼は教員免許を持っていないからで、何でもこれから通信教育で教員免許に挑戦するところから始めるらしい。

  退職の挨拶メールには、「私は、小学校から大学までずっと学校が楽しくてたまらなかったのですが、その要因のひとつに先生の存在は欠かせないものだったと思っています。(中略)昨今のニュースでは、不登校問題、いじめ問題、親との衝突、など様々な問題が掲げられています。皆様からはよく笑われますが、そんな教育環境を何か変えれるのではないか?もっと学校は楽しい所なのだ!という事を子供に教えてあげられるのではないか?と考えるようになりました」とあって、試験通過に年齢制限がある中、これはなかなか大変な決断だと思う。笑うなんてとんでもない、その志に感動、である。といって健闘を祈る以外に何もしてあげられることはないのだが。

  彼の言を読んで、自分がかつて世話になった先生方のことをあれこれ思い出した。先生の影響、確かに考えてみると大きいものだなと思う。いい影響も悪い影響もあるけど。私に最初に決定的な影響を与えたのは、小学校で2年生・6年生のときに担任だった田中先生だな。田舎の小学校に転任してきた若い、おそらく当時20代半ば過ぎの男の先生で、とにかく新しかった。新しかった…というのは、ポマードつけた軍隊がえりで時に生徒を平手で打つようなオッカナイ爺さんの先生に縮み上がっていたところに、それまでなかった「友達のような感じ」の存在として現れたからで、何というか大変にびっくりしたのであった。

  記憶を呼び起こしながら指折り数えて思いついたことがある。この頃(私が小学2年生だったのは昭和49年)、全国の小学校で同じような新風が吹いたのかもしれない。田中先生の「友達のような感じ」、これ、団塊世代が就職して教育現場にやってきて、そろそろ自分のやりたいようにできるようになってきた頃……ということだったんじゃないか。そういえば、田中先生、乗っていた車はいわゆるケンメリ・スカイライン。プレイボーイのマークがはいったトレーナー、そしてポマードじゃなくてトニックの香り、薄く色のはいったメガネ、ギターや電子オルガンも弾けちゃうあの感じ……なるほど、そうだ、田中先生は団塊先生だったのだ。

  子供たちが進んで何かをやること、何かを考えること、つまり自主性だわね、自治。そういうムードをつくるのがとても上手かった。それまで内向的で自信が無くて学校に行くのがいやで仕方なかった私だったが、田中先生の団塊世代らしい新しさとウマが合ったんだろう、閉じた気持ちを外に向けて開いてみようというキッカケ、手がかりをいくつもいくつももらうことができたように思う。この出会いには感謝している。団塊世代との接触は社会人になってからだと思っていたけれど、考えてみればこんな関係があったのだね。

  いわゆる「世代論」はマーケティングの現場で引かれる機会が多い。生年で区切るだけであれこれ語れてしまうから便利なことこの上ないのだが、それ故あまりに安易な用例もよく見かける。今回の推薦本は『世代論のワナ』(山本直人著)。マーケティングの専門家であると同時に、人材育成のプロとして数多くの若者たちと接してきた著者が、昨今の「世代論」の濫用に警鐘を鳴らす。各世代の断絶ばかりを戯画的に描いて、単なる思考停止のレッテル貼り(まるで血液型占いのような)で終わるのではなく、各世代のタテ・ヨコ・ナナメの関係に着目した新しい「世代論」のスコープをひらいてくれる。田中先生と私、そしておそらく同時期に日本のあちこちで起こっていたであろう団塊世代と(後の)バブル世代との出会いは、本書がいうところの「ナナメ」関係のひとつだろう。

イメージフォト

世代論についてさらに踏み込んでみようと思われた方には、『昭和の子供だ君たちも』(坪内祐三著・新潮社)も推しておく。こちらは昭和ヒトケタ世代から話が始まる壮大な構え。帯に曰く「昭和の精神史」。

本誌デザイン/阿部雪絵デザイン室

〔筆者プロフィル〕

1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所客員研究員、(株)博報堂プラニングハウスフェロー、(株)パズル社外取締役、(株)ants相談役、「宣伝会議」レギュラー講師。著書に「ポスト3.11のマーケティング」(共著)など。 http://blog.goo.ne.jp/omiyage22