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プランニングのことは磯部さんに聞いてみよう(磯部光毅氏)

広告やコミュニケーションについて話をしていて「なんか議論が噛み合ないな」と感じたことはないだろうか。それは曖昧な意味合いで「戦略ワード」が使われていることが原因かもしれない。
コミュニケーション戦略の歴史と分類を体系的にまとめた「手書きの戦略論」は、そんな業界の“戦略の教科書”とも言うべき存在だ。著者で戦略プランナーの磯部光毅さんに戦略とプランナーについて話を聞いた。

── 著書の中にもありましたが、戦略ワードが氾濫していて、議論がちぐはぐになってしまうことがある、と。

言葉の定義が曖昧だと、会議の論点がふわふわしてきますよね。フォーカスが絞られていないので議論がうまく積み上がっていかない。

また、それとは別の問題として、「戦略のプロ」がいなくなってしまったと問題視されています。テクノロジーが進化し、広告やコミュニケーションの扱う領域がどんどん拡がっていくなかで、ビッグデータのプロとかブランドのプロとか、それぞれの領域のプロはいるんですけど、全体の戦略を見られるプロが実は少ない。でも、そういうプロってプランニングを成功させる上ではやっぱり必要なんですよね。

── 全体を統合的に見られる戦略プランナーが大切だと。

はい。一方で注意したいのは、最近「統合の罠」に陥りがちなのではないかということ。つまり、なんでも統合すりゃいいってもんじゃないということです。無理に統合することで、一個一個の施策のパワーが落ちたり、企画書上は統合できていて美しいけれど、実際は目的を達成できていないみたいなプランも散見されます。統合すること自体が目的化してしまっていておかしいですよね。今は「統合」とか「IMC論」みたいなものが流行っているので、みんなそれに乗った戦略を作らざるをえないとも言えますが。

── 流行りものには注意しろ、と。

逆説的ですが、戦略ほど流行に左右されるものもないと思っています。やっぱり新しいものっていつの時代も求められてるし、みんな試してみたいんです。でも、流行や言葉に振り回され過ぎないようにしようねと。この本を書いたのも、そういう風に惑わされないための地図を作りたいなという思いからでした。

『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』(磯部光毅[著]・宣伝会議)2016年4月22日発売 1850円+税

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── 磯部さんご自身のプランニングのアプローチってどういうものですか。

「彫刻を作る」みたいなイメージでしょうか。大きい石をあっち削ったりこっち削ったりして少しずつ全体を完成形に近づけていく。与件を整理し、データを分析し、という基本的なプロセスも踏みながら、コンセプト、キーワード、インサイトや施策アイデアの「かけら」を一つずつ見つけていき、点と点を結んで全体を少しずつ削り出して精緻な彫刻を作る。「どう人を動かすか」ということをいろいろな角度からずっと考えながらやっている感じですね。そのとき必要なのは、 “足を動かす→手を動かす→心を動かす→頭を動かす”という順番で進めていくこと。若い人の書いた戦略企画書を見ることも多いですが、論理的でキレイな資料になっていても、足が動いていない、PCと会議室で作っているものはどこか上滑りしているように思えます。例えば数店舗でも売り場に行くだけで気付くことってたくさんあるのにと思います。その次に手をたくさん動かすことも大切。コンセプトは出来るだけ手を動かして何十個も書く。書いては捨て、選び、磨いていって量から質に転化していく。この手法はコピーライター的ですね。そうやってある程度形が見えてきてから、「それでこれは心が動くんだっけ?」と客観的に自分の心に問うんです。最後に、そのプランを受け手にとって理解しやすいものにするために、論理を一から組み替え直します。意思決定者に論理的にも腹落ちしてもらわないといけないわけですから。

── どの工程も大事な気はしますが、一番の違いはどこに出ますか?

例えば「○○する人は70%だった」というデータをどう解釈するかというのは、その手前でどれだけ足を動かして現場を見たか、手を動かして可能性を探ったか、周辺のデータが頭に入っているかで全く違ってくるものです。クライアントのキーマンはそういったことをご自身でやってきた方なので、「この70%という数字の裏にあるリアルをどのぐらい掴めているの?」という視点でプランナーの力量を見ています。そうやってだれよりも今回の課題について深く考えていますというところまでいくことが大事。だから、企画書がカッコいいとかはあまり問題じゃなくて、深く理解して、深く考えてきたということがちゃんと伝われば、こいつの言うことを信じようと思ってもらえるんだと思います。

── ところで海外ではコンサル企業がクリエイティブエージェンシーを買収するなんてニュースも増えてきました。

コンサルが入れるところはこの本でいうとダイレクト論とかIMC論のところですよね。つまり“最適化”をめざす領域。最適化をめざすものに関してはコンサルの方が得意です。でもやっぱりマーケティングコミュニケーション全体を考えると、追求すべきは“最大化”です。つまり、今まで見えなかった潜在的なニーズや欲求を顕在化したり、話題化したり、好きになってもらったり、人を動かしていくというのが最大化の部分で、広告会社がこれまで考え続けてきたところです。この領域はいまのコンサルでは実現できないと思います。

── 日々、プランニングの作業に向き合う中で、課題や困難に感じていることは何ですか。

今はもう先進国ではほとんど経済成長しない時代になっていますよね。金利が0を下回るということは経済成長を期待できないことをマネーが示しているということ。つまり伸びしろがほとんどない。ある程度やられたところをひっくり返すとかうまく隙間を作るみたいな仕事になっている。空白地帯があるところのマーケティングよりも数倍難しいし、そこが醍醐味でもあります。

── とはいえ、2020年というのは伸びしろと言えるんじゃないでしょうか。

日本という緩やかにマーケットが縮小していく市場で、一時的であるにせよマーケットが拡がるのが2020年ですよね。各社のマーケティングプランもとりあえず2020年を目標地点にしているものがすごく多いです(笑)。でもなんだか怖いですよね。それにしかすがれないのは。その先を描きたいと個人的には考えています。

── 最近、面白いなあと思ったプロモーションをひとつ教えてください。

この間までお台場でやっていたDMM.プラネッツ(Art by teamLab)でしょうか。巨大な空間でのデジタルアート展ですが、雨の中260分待ちの長蛇の列の日もあったとか。そこから学べるのは、人を動かすための「感動の深度」をこれまでより深めに設定しないといけないということ。中途半端にやっても無駄で“圧倒的体験がもたらす閾値を超える感情体験”みたいなところまで持っていかないとダメだなと思いますよね。心震わす体験。ブランディングはそちらに向かっていくんじゃないでしょうか。それとはまったく真逆のターゲットに数打ち当たる方式であてていくようなダイレクトなマーケティングも、効果が可視化できる範囲を広げながらもっと活用されていくでしょう。深いところに刺さって心に残すアプローチと、効率良くひたすらあてていくアプローチ。このせめぎあいが、まだしばらくは広告の議論の中心になっていくんじゃないでしょうか。

── それでも新聞広告が刺さるところを挙げるとしたらどういうところでしょうか。

世の中にステートメントしていくという価値は今後もあり続けるので、ソーシャルに物事を語る場としては新聞は強いんだろうなと思います。ただそれは限られた役割なので、多様な企業のコミュニケーション活動の中で、舞台を増やせるかどうかが勝負ですね。

磯部光毅(いそべこおき)

アカウントプラナー
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年(株)博報堂に入社。ストラテジックプラニング局を経て、クリエイティブ局(コピーライター)へ。独立後(株)磯部光毅事務所設立。主な仕事に、サントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアム・モルツ」「伊右衛門」、トヨタ「G's」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビー等。ブランドコミュニケーション戦略を核に事業戦略、商品開発から、エグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。著書/『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議、2013)等。受賞歴/ニューヨークフェスティバルAME賞グランプリ、ACC CM FESTIVAL 「ME賞」メダリスト等。

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